01.the return of the abstract mc
アブストラクトMCの帰還。これが1曲目。リリックとしては最後に出来た曲。
概念そのものが「abstract」なアブストラクトを歌おう、と書く。
「それが何か」を言おうとしていく程抽象的になっていく、
という逆説を素で体験した。乱暴な言い方だが、最終的には「雰囲気」なのかと思った。

静かでもやがかったsuzumeビートはアブスト・オブ・アブストだと思う。
02.図書館戦争代理
全曲で最も散文詩。より多くの言葉を使って、
世界観を出せるMCはそれだけでスキルフルだと思う。多ければ多い程。
「ニュアンスの海の落とし子に正しい・間違いは朝飯前」とはその事。
ただ「行動でコミュニケート」とも書いた。

自分の見聞きした物語のキャラクター、
トピックをアルバムの曲数だけリリック上に入れてある。

次の3曲目でも歌ったが、一聴しただけでリリックを分からせる力と、
何度も聞き込ませないと分からない程のリリックの構成力は、
違うようで似ている気がする。
このトラックのギターはsuzume本人。
03.マイノリティレポート
そもそもsuzumeのビートでラップがしたい、
という事でこのアルバムは07年に制作が始まった。
1stの音楽ワルキューレとの違いはそこにもある。
なので、曲の空気感でリリックのテーマが
変わったものがあるが、これは変わらなかった。

少数派VS多数派という世界・時空共通の問題を、
この曲では1曲目のアブストラクトMCの視点で見てみた。
04.science fiction
空想科学。高度な韻を踏む、格好良いフローでビートに乗る、
自分の生活や主張を伝える、とはまた別のラップの目的。
自由奔放な空想賛歌に見えて、空想を具体的にラップする事は、
堅実で地道な作業になっていくと改めて気付いた。

スクラッチはdj sho/hei aka Quviokal。
05.神さまになった少年
超能力を普通の人間が手にするというSFのトピックを
自分なりに書いてみた曲。

ビートの長さを伸ばせば結末も変わる。
自分のいわゆる「ストーリー物」に対しての考え方。
この少年の結末はこうなった。

作る際、10分超のストーリー物の制作も考えたが、
音楽媒介で好んで聞くストーリー物の長さが、
自分はこの位だったりする。このアルバムを
「短編集」としてるのはそれもあり。
しかしいつか、その長さの物も作ってみたい。
それ相応の力を持って。
06.monster
人間の姿だが、中身は怪物、人間とは違う、
自分は別の生き物だ。と考えている人間の男の曲。
メロディの淀み具合がMAXな気がして化け物を想像。
hookを鳴き声というか、こういう声の構成にしたのは、
ビートに感化されて。
07.モノリス
知識、情報の集合体、モノリス。それに触れた男の物語。
5〜7曲目の一連の人を超越しようとする、
別の存在に変身しようとする過程は、仮想現実の王道。
そこを歌ってみた。3曲でそれぞれ肉体的、精神的、4次元的に。

先で書いたようにビートによって、
ラッパーの書く「ストーリー物」は変わる、という考え。
そこが他の、小説や漫画等の物語媒介との差で、
音楽にしようと意識するとまた微妙に変わってくる。
つまりラッパーでしか表せないフィクション、というのは確実にある気がする。

アルバム最初期に出来た曲。
これが1曲目として上がった時、世界観がぼんやりと固まる。
08.future theory
SFの王道「未来」がテーマ。
だが歌ってるのは「未来」じゃなくて、
未来の空想科学」そのもの。4曲目の未来バージョンだと言える。
ビートがかなり速い。おそらく自分のラップの中で過去最高の速さ。
09.ホーリーランド
タイトル曲。suzumeからデモを聞かせてもらった時、
このタイトルがすぐ浮かんだ。同名コミックのタイトルで、
インスパイアされたのもあるが、ワルキューレを作ってからの
半年間の自分の生活観で感じた「自己犠牲」がテーマ。

自分の犠牲は元より、その人間のためなら誰かを傷つけてもいい、
何かを壊しても良い、という感情は、待ち続ける愛情、
無軌道な破壊衝動も差し置いて、究極な感情の気がする。
       
ドラムの激しさはsuzumeビートの特徴を最たる形で出している。
ビート自体は制作の一番最後に上がってきた。

「冬の雨」「アスファルト」はビートのイメージ。
あと、あの漫画の個人的イメージ。
10.endman's mind dance
終わりを考える男の精神の踊り。諸行無常、終末観を
「人生の終わり」と「日常の終わり」に対比して歌う。
11.dreamday
ラストのリリック一行がこのアルバムでラップした事全て、
だったりする。リリック上でのフィクションを
活動初期から歌っている自分は、フィクションを作る行為が
MCとしての存在を証明できるリアルだと感じる事がある。
リアルとフィクションの共存、とはまた違うが、
「叶う叶わないだけが夢のある日々の結末じゃない」とは
夢を実現させるために生きる人は元より、
フィクションを作る全ての人にも2重の意味で向けている。
  
メロディは綺麗だが、ドラムの激しさはsuzumeビート。

「少年」からの「endman」までの暗雲垂れ込める空気と反する終わり方。
払拭しようとか、考えず自然とこうなった。
アルバム構成をしたのは自分だが、この流れが好みなのかもしれない。
以上アルバム「ホーリーランド」解説です。
稚拙ですがここまでお付き合い頂き有難うございます。


> Create & Delivery TOP