2011.10.29

geskia! x buna 対談

術ノ穴が提案する、新しい音楽の届け方。音楽業界を独自の目線で切り開く「術ノ穴」が届ける5ヶ月連続1500円企画!! その第2段の、”和製 Aphex Twin” “テクノ ベートーベン”と世界中から評される Geskia!「Alien」、そのアートワークとデザインを担当した bunaと Geskia!による対談。

アンチテーゼについて

buna
「Geskia!さんには、アンチテーゼが常にありますよね」

Geskia!
「天の邪鬼な性分なのもありますが、常にそこにはない独自の手法を探しているので、それがアンチテーゼになっているのかもしれません。」

buna
「無意識レベルではありますが、”そこ”に無いものを補おうとする傾向は自分にもありますよ。例えば暗いトーンの絵が主流だったら、底抜けに明るい絵を描くと思います。これをただの”捻くれ”ととらえる人もいるかもしれませんが、部屋の空気が悪くなれば、誰かが窓を開けるなどして換気をしなければならないし、寒くなれば誰かがその部屋を暖める必要があるのと同じことで、そういうバランスを整えるのが自分の役目の一つだとも思っています」

Geskia!
「なるほど。bunaさんの作品からもアンチなパワー、「反」を感じるんですが、制作においてどのようにお考えですか?」

buna
「実は10代の頃から 70年代の初期パンクやFugaziなどが代表する 80年代ハードコア に傾倒していました。なのでアンチ、反骨というアティチュードはあります。例えば表面的な可愛さやおしゃれさを追求している人たちや、社会問題に目を向けない人たちに対してのアンチはありました。ただ、今は彼らは自分とは別の役割を持った人たちとして受け止めているので、それに対してアンチはないですね。制作においては、日々感じ考えたことを大事にしてはいますが、実際に描くときは頭を空になるようにしています。ですからアンチを表現することは今は考えられません。もちろん何かをきっかけにやりたくなったらやりますけどね。基本的にそういう表現はブログなどに文字で綴るなどして、作品とは切り離したいです。」

Geskia!
「僕は完全に80年代のカルチャーに影響を受けました。 Wireが「ロックじゃなければ何でも良かった」、ジョン・ライドンが「パンクは死んだ」と言ってダブを始めたように、いかにレフトフィールドな事を自分のアイデンティティとして極めるかっていうのが僕のルーツです。ただし「人と違うことをやる=自分を極める」という安易な真理ではなく、自分は何故こういう表現をしたいのか? を自分の中で明確にした上で、それを極める必要があると思います。なので、僕にとって周りに対してのアンチっていうのは経路であり、実際は自分自身に向けてのアンチっていうのが根本です。特に国内のみでリリースされる僕の作品に関しては、国内の音楽シーンにその対象が向くので、余計に偏ったものになっているんですよね」

buna
「すでに伝説的と言っても過言でなない、ICASEAの東日本大震災救済コンピレーションですが、それに収録された Geskia!さんの曲bud9を聴いて、良い意味で拘りや、苛立のようなものから解放されたように感じました。また何かに対してのアンチテーゼではなく、自己との闘いによって生まれ落ちたような清々しさと、成熟した感じがしました。なので Geskia!さんには、 あまり国内のシーンのことは気にせずに制作して欲しいと強く思いました。」

Geskia!
「ありがとうございます。あれはICASEA自体がそういうレフトフィールドな価値観を共有した表現者の集まりみたいなレーベルだから、思う存分自分自身を発揮できたっていう結果ですね。」

アルバム『Alien』について

Geskia!
「『President IDM』の時の話をすると、電気的なHIPHOPって国内だとある程度イメージがあると思うんです。例えば、国内だとInsector Labo周辺の音とか8th Wonderの音とかがそれに当たると思う。彼らは彼らでかっこいいけど、そのまんま僕がやる理由が見つからない。だから、独自のフォーマットでやって、元々そこにあった価値観から脱却したかった。具体的に言えば、そういう電気的なIDM要素とナードなHIPHOPのブレンド感なんですけど。一方『Alien』では、国内で電子音楽のルーツを継承した、海外のPlanet-muとかSkam、Warpのようなブレイクビーツのシーンが皆無だったので、それをつくりたかったです。」

buna
「世界的にエレクトロニカのシーンが縮小してきた、 2005年にマンチェスターから帰国して、 国内にはフォークトロニカばかりで、自分がマンチェスターで親しんできたようなスタンスで音をつくっている人があまり見当たらず、もの足らなく感じていました。 再び純粋なエレクトロニック・ミュージックのシーンが盛り上がるときが来るだろうし、ブレずにやり続けた者がそのときに最前線をいくだろう。と ICASEAの主宰者のひとりでもある、アレックス( skam / Team Doyobi / Zero Charisma)とも話をしていたのですが、Geskia!さんにもそうあって欲しいと勝手ながら期待しています。」

Geskia!
「そうですね。僕もそれは非常に残念だし、もっと増えて欲しい。bunaさんの発言で気付きましたが、僕は純粋に自分の好きな音楽が出来てると思います。WarpやMute、konpaktや4AD、AnticonやMo’Waxが好きなんですが、これらのレーベルが好きな方ならピンとくると思います。こういうレーベルが持つシーンは世界的に見てもコアなシーンだし、国内にはまずないじゃないですか。僕はそれらのルーツと折り合いを付けながら表現してる感覚です。特に国内ではコアな表現をアンチの補填材料にしてモチベーションにしてるっていう。」

現在のシーンについて

術ノ穴
「現在の国内のシーンについてどういう印象をお持ちですか?」

buna
「まだまだ海外の流行を追いかけている印象がありますね。ただ一方で、日本独自なものも生まれ育ってきているので、希望は持っています。Geskia!さんも今年の6月に出演した、CMFLGのPROTOCOLというイベント周辺は面白いですよ。他では聴けない音が聴けるし、何か新しいものが生まれそうな、そんな可能性を感じるシーンですね。」

Geskia!
「国内は対極なコアなシーンがそれらと対等してないぐらい小さい、もしくはないから、お互い切磋琢磨して成長できる土壌がないんじゃないかなーと。未だに頑張っているコアなアーティストって80′sの方々ですし。」

buna
「切磋琢磨する土壌がないのは、色々理由はあると思いますが、一つにお互いの意見ぶつけ合うことをあまりしないからじゃないですかね。喧嘩腰にならず、お互いの考え方を尊重して、相手を変えようとするのでもなく話せると良いのかなと。」

Geskia!
「僕はわりとアーティストさんを捕まえてそういう話をしますよ。Taishin君やFugenn君(PROGRESSIVE FOrM)と話するのは凄く面白い。個人的な意見として、今はコアなシーンをそのまま押し上げようという姿勢よりも、コアな所からリスナーに届き易い物をクリエイトする傾向が強いと思います。僕が言いたいのはそれらが良いか悪いかではなく、より成熟したシーンを形成するにはコアはコアとして存在しなければならないし、マジョリティーはマジョリティーとして存在する。その2つの価値観が良いバランスで存在して欲しいという願いがあります。」

buna
「実際にアーティストとして、リスナーやレーベルの印象はどうですか?」

Geskia!
「リスナーに関して言えば、リスナーに届きやすい音楽や表現をする事の重要さは、自分も感じているのですが、あまり寄り添い過ぎて表現自体の精度がソフトになっている印象があります。レーベルも人気がある作品に引っ張られて、似たような物を量産してしまう傾向がありますね。そんな中、術ノ穴からリリースできた事は本当に意義のある事だと思います。術ノ穴自体、今は変わったJ-Rapっていう位置づけで分かり易い展開を見せていますが、根底にあるのはこういうコアな部分なんですよ。Fragmentの2人は『Alien』の価値を凄くよく理解してくれていますし、信頼できる。bunaさんも国外でライヴペインティングなどをされていますが、どう感じていますか?」

buna
「国内のオーディエンスのアーティストやイベント、ライヴの楽しみ方や接し方に違うがありますね。アーティストは特異な存在であっても、特別な存在ではないですから、それぞれが感じたことを同じ目線の高さで直接彼らに言動でぶつけて良いと思います。また、ライヴでもテレビを観るような受け身のスタンスではなく、これを利用して楽しんでやる!というスタンスで、積極的に楽しんでもらいたいです。アーティストを育てるのはオーディエンスだってことを英国やスペインで肌で強く感じました。そもそも国内ではそういう場が少ないのが一番の問題だと思います。これ以上は政治の話になってしまうかと。」

Geskia!
「国内だと属したいシーンがないんですよね。」

buna
「そうなんですよね。自分が求めるようなシーンが存在しないのは、国民性が理由だと海外のアーティストに言われて、絶望的な気分になったことがあります。もし原因が国民性だとしたら、かなり根深いですからね。そう言ったこの日本の状況、システムを考えると、投げ出したくなってしまいますが、不満を感じている人間が、諦めずにそういうシーンをつくっていかなければならないですよね。きっと同じように感じている人は少なくない筈ですから。」

スタイルが変わることについて

術ノ穴
「二人の共通点の一つでもありますが、スタイルが頻繁に変わるのは、何か考えがあってそうしているのですか?」

buna
「移り変わりが多い東京の空気も少なからず影響はしているとは思います。ただ、今は色々な可能性を試して、表現の可能性を模索している段階なのです。一つのスタイルを突き詰めるということは敢えてしていません。」

Geskia!
「そうですね。僕もアルバムごとにスタイルが違いますが、1つのスタイルを深めていくやり方もあるけど、それはスタイルを守っているだけで、元々表現は自由なので。自分から出た表現自体を深める事が僕のやるべき事だし、それにしか興味ないです。」

buna
「できるだけスタイルに縛られずに自由に変化し続けながら、その表現を深めるのが自分にもあっているように思います。でも大きな流れで考えると、 自分にとっての芸術の定義も見えてきましたし、表現したいこともわかったので。最終的には身につけた技術を一つに集結させたような作品をつくるような予感もしています。 それが何年後、何十年後になるかはわかりませんが。60歳ぐらいまでには、ある程度かたちになればと思っています。また、今年の夏から京都でも制作をしているので、この先何かしら変化がある筈です。」

名義について

術ノ穴
「そのスタイルごとに名義を変えるアーティストがいますが、お二人は名義を変えたりしないのですか?」

Geskia! 
「それぞれのスタイルで名義は変えないです。全ては1人のGeskia!という存在が作っているわけなので。bunaさんも言ってましたが、色んな表現があっても、それは自分のコアを表現していて、一つのところに向かっているつもりです。だから、本当は1枚だけで Geskia!を判断されてしまうと、誤解されてしまうと思います。bunaさんはそういうのないですか?」

buna
「ありますよ。手描きのスタイルとデジタル加工したスタイルではかなり違うので、どれか一つだけで自分の作品を語るのは無理があると思います。名義に関しては、今のところスタイルによって変える気はないですが、必要になれば変えますよ。もともとbunaというのは生き方であって、名前でなくても良いので。あまり執着はしてないです。」

Geskia!
「僕もその考えに近いです。Geskia!とは、音楽、しいては表現をする名目みたいな存在で、信仰みたいなものなんです。それがないなら、本名でやれば良いんですから。自分のエゴに名前を付けたみたいな感覚です。」

ライヴについて

buna
「エレクトロニカのシーンに関して言えば、オリジナルの曲にエフェクターをかけるだけの、カラオケのようなライヴばかりなので。その場で何かが生まれている感覚がしないのが残念です。家でCDを聴いた方がよっぽど良い場合もよくありますからね。それに、今日あのライヴをみなかったら、凄い出来事を見逃すかも。という期待、緊張感がないです。それがイギリスのシーンにはありましたから。」

Geskia!
「ライヴに関しては、自分の表現力でリアルタイム性を求めて表現するなら、CDJ2台とEQ処理で充分なレベルです。真にライヴという場を作り出す為には、他の要素もあると思うので、みんなが騙し騙しやってることを、騙さずやってる感じですね。」

buna
「最近、Geskia!さんが出演するイベントの情報をみると、DJとしての出演になっていて、それがDJスタイルで自身の曲をかけているという意味だということがわかり、潔さが気持ちが良かったですよ。それに同じようなスタイルでやってライヴと言っている人たちへの、まさにアンチテーゼになるというのが、格好いいですよ。」

Geskia!
「よくわかってらっしゃる!」

今後について

Geskia!
「僕の育った町には、山が噴火したときに飛んできた岩石が、街のあちこちに点在していて、町並みの中に突如として自然むき出しの岩石がゴロンとしていたり、森の中に立つ電波塔、そういう対比したものが存在するバランスが凄く好きで、非常に美しいと思うようになったのです。なのでそういう美意識を音で表現していきたいです。また、バランス感覚を追求した作曲も楽しんでいきたいです。ありきたりの発想をそのままやるのはどうしても抵抗があるものですから、すごくドローンなテイストをいかにカッコ付けずにブレイクビーツにしのばせたりとか、ピアノで作った綺麗なメロディをえげつないプロセッシングをした音色に置き換えていく手法だったりとか。でもきっとそういう発想を研ぎ澄ましていけばそれが個性をもった表現にも成りえると思っていますので、その追求はこれからもしていくと思います。」

buna:
「国内外のエレクトロニック・ミュージックシーンを中心に、アートとデザインというビジュアル面で関わり続けたいですし、こうやって実際に音楽をつくっている人と話をして、刺激をもらっていきたいです。一人の芸術家としては、革新的ではありたいと思っていますが、それよりも数百年前、何十年前に生きていた先輩方に追いつき、その先へたどり着くことを重要視しています。そして何よりも全ては自己を深化させるためであり、人間が大切なことを見失わないための、その拠り所になる作品が作りたいです。」

geskia! – alien

デビュー・アルバムが英WIRE紙やanticonのDose Oneなど世界中のメディアから喝采を浴び、「President IDM」ではFREEZ(RAMB CAMP,EL NINO)やhaiiro de rosshiなど日本が誇る豪華MC陣とコラボレートしたGeskia!最新作「Alien」は全曲インストのダンスミュージック!!”和製 Aphex Twin””テクノ ベートーベン”と世界中から評されたGeskia!が作り出す、美しく繊細なダンスミュージックで異世界へトリップ!

術ノ穴STORE / itunes

geskia!

自身を取り囲む生活や他人との関わり、またはその世界観の再現をコンセプトに2001年に活動を開始。 初期はCoilやEinsturzende Neubautenに代表されるインダストリアル・ミュージックやテクノ、トリップホップ・ムーブメントに影響を受けていたが、徐々にオリジナルなスタイルを確立。 2008年flauと契約。デビュー・アルバム『Silent 77』を発表し、英WIRE紙など世界中のメディアから喝采を浴びた。これまでにflauより『Eclipse323』、術ノ穴より2ndアルバム『President IDM』、 2009年末には『President IDM』を解体再構築したEP2作をiTunes Storeでリリースした後、2010年にはBajune Tobeta『African Mode』にAdditional productionで参加。PROGRESSIVE FOrMのコンピレーション『Forma. 3.10』にも参加を果たしている。
Geskia! myspace

buna

千葉県市川市生まれの絵描き / グラフィックデザイナー。東洋的観点から人生の意味や芸術の役割を探求する。絵描きとしては今までに英国、米国、スペイン、マレーシアなどの展示会に出展、またライヴパフォーマンス を行う。グラフィックデザイナーとしては Funckarma、 Consequence、 Fugenn & The White ElephantsなどのCDジャケやポスター、雑誌などのデザインを中心に手がけ、エレクトロニカのDJとしても Jicoo The Floating Barを中心に活動している。
http://bunaism.com/